ブロックチェーン・レボリューション

逆のパターンになるんじゃない?というビットコインの夢のような話が続くので、ホンマけ?と思ってたら、第10章で問題点が列記されていた。著者としてはあえてバラ色の未来を強調してみたということなのだろうか。

インターネットの帰還

 インターネットの始まりにあったのは、若きルーク・スカイウォーカーの精神だった。(略)
 それまでメディアは巨大な権力にコントロールされていて、みんな黙ってその情報を受けとるしかなかった。でもインターネットという新たなメディアでは、世界中の人びとが主役だ。発言力は広く行きわたり、人びとはもはや無力な受信者ではなくアクティブな発信者になる。
(略)
 そうなるはずだった。
 実現したこともいくつかある。ウィキペディアリナックスのようなマス・コラボレーションが登場し、通信とアウトソーシングのおかげて途上国にいてもグローバルな経済に参加しやすくなった。いまや20億人の人がソーシャルにつながりあい、以前ならありえないようなやり方で情報にアクセスできるようになった。
 ところがやがて、帝国の逆襲が始まった。大企業や政府は、インターネットが持っていた民主的なしくみをねじ曲げ、自分たちの都合のいいようにつくり変えてしまったのだ。
 大企業や政府はインターネットの支配者となった。
(略)
 インターネットの最初期に懸念されていたダークサイドは、そのまま現実になった。(略)
富の集中と固定化はますます激しくなった。(略)
 アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックなどの肥大化したネット企業は、僕たちがこっそりしまっておきたいようなデータまで大々的に収集している。人びとのデータはいつのまにか大企業の「資産」に組み込まれ、プライバシーや個人の自由という言葉は以前のような意味を持たなくなってしまった。
(略)
 ウェブは死んだ、と主張する人もいる。
 でも、そうとは限らない。
 ブロックチェーン技術は、こうしたネガティブな流れを押し返す新たな波だ。世界はついに本当の意味でのP2Pプラットフォームを手に入れた。これからどんどんすごいことが可能になるはずだ。
 僕たちはアイデンティティや個人情報を自分の手に取りもどせる。巨大な仲介者を通さなくても、自由に価値を創造して交換することが可能になる。

本物のシェアリングエコノミー

[ウーバーなどの]サービスは、本当の意味の「シェア」ではない。情報を集約することで成り立っているからだ。実際、彼らは「シェアしないこと」によって収益を得ている。(略)
 Airbnbによる集中管理は廃れて、そのかわりに分散されたアプリケーションが主流になるだろう(略)
部屋を借りたい人が検索条件を入力すると、ブロックチェーン上のデータからそれに合うものが抽出される。取引がうまくいって高い評価が得られれば、それがブロックチェーンに記録されて評価が上がる。誰かに仲介してもらわなくても、データがそれを教えてくれるのだ。
 イーサリアムの考案者ヴィタリック・ブテリンはこう語る。
 「たいていの技術は末端の仕事を自動化しようとしますが、ブロックチェーンは中央の仕事を自動化します。タクシー運転手の仕事を奪うのではなく、Uberをなくして運転手が直接仕事をとれるようにするんです」

金融機関

 ブロックチェーンは金融サービスを古くさい銀行から解き放ち、業界に競争とイノベーションを取り入れるだろう。利用者にとっては朗報だ。これまでは採算がとれないとかリスクが高いという理由で金融サービスからはじきだされる人が何十億人もいた。でもブロックチェーン時代になれば(略)
あらゆる業務が劇的に改善されるはずだ。みんなで同じ帳簿をシェアすれば、決済に何日もかかるようなことはなくなり、目の前であっという間に取引が完了する。
(略)
 金融機関の意図的な不透明性と細かく分断された監督体制のせいで、政府や規制当局も業界の実感をつかむのに苦労している。(略)
規制当局の使っているルールも時代遅れなものばかりだ。たとえばニューヨーク州の送金に関する法律がつくられたのは19世紀の南北戦争時代。お金を移動させるのに馬車を使っていた時代である。
 世界の人口の半数がスマートフォンを持っている時代に、なぜウエスタンユニオンの送金支店が世界50万箇所も必要なのだろう。(略)
 「銀行システムを使って中国に送金するのに比べたら、重たいハンマー台を中国に送りつけるほうがまだ早く着くんですよ。おかしいでしょう。お金はすでにテータになってるんですよ。札束を詰め込んで送るわけじゃないんですから」
(略)
ジョセフ・スティグリッツ金融危機を振り返り、「銀行はあらゆる手を使って手数料を引き上げてきた」と言う。(略)現代のテクノロジーを使えば送金コストなど微々たるもので済むはずなのに、実際は「商品価格の1%から3%、あるいはそれ以上が銀行のものになります。独占的な力にものを言わせて、とれるだけ絞りとっているのです。これを各国で繰り広げ、とりわけ米国では数十億ドルの利益を上げています」
(略)
 つぎはぎだらけの奇妙な怪物になりはてた金融業界だが、その寿命はもう長くない。近い将来、ブロックチェーン技術が業界をひっくり返すことになるからだ。

[ブライス・マスターズ]彼女はJPモルガンを辞めたあと、デジタル・アセット・ホールディングスというブロックチェーン関連のスタートアップを立ち上げてCEOに就任した。
  業界を騒然とさせる決断だった。ブロックチェーンの重要性を誰よりも早く見抜いたのだ。
 「1990年代のインターネットに匹敵する重要技術だと思っています。金融業界の業務は一変するでしょう」とマスターズは言う。
  初めは彼女もビットコインを誤解していた。ドラッグ売買やギャンブルの道具だとか、アナーキストが社会を壊そうとしているなどのあやしい噂が飛び交っていたからだ。でも2014年末に、変化がやってきた。
 「ふいに、ああそうかと気づいたんです。この技術にはすごい可能性があると。暗号通貨という使い方もおもしろいのですが、その根底にあるデータ処理技術のほうがはるかに重要なんです。」
 マスターズがブロックチェーンに惹かれたのは、「複数の関係者がひとつの情報を参照する」ことによってコストと時間が大きく削減できるからだ。情報を複製したり、関係機関のデータを取り寄せて照合したりする必要がなく、誰もが同じ情報を利用できる。「情報の形として最高です」と彼女は言う。
(略)
 「取引の実行から、複数取引のネッティング、誰が誰とどんな取引に合意したかという情報の照合、それらが取引の発生と同時におこなわれるわけです。現在の主流のやり方よりずっと速くなります」とマスターズは言う。
(略)
 「分散台帳技術の注目すべきところは、トレーサビリティ向上によってシステムの安定性を上げられる点です」
 ブロックチェーンなら情報はすべて明確に記録されていて、いつ誰が何をしたかは一目瞭然だ。改ざんできないタイムスタンプもついている。検索はスムーズで、おかしな数値にアラートを設定するなどの使い方も可能になる。
「規制当局の仕事はかなり楽になるでしょう」
(略)
 シリコンバレー冒険者たちは、既存の銀行を恐れない。元グーグル幹部でソフトウェア・エンジニアのスレッシュ・ラマムルティは、カンザス州のウィアーという町にあるCBW銀行を買収して周囲を驚かせた。ウィアーは人口650人のちっぽけな町だ。ラマムルティはここを実験室にして、ビットコインベースの無料国際送金サービスを軌道に乗せたいと考えている。
 ブロックチェーンで成功するためには、金融サービスの内情を知らなくてはだめだ、と彼は言う。「業務知識なしでやろうとするのは、壁に窓の絵を描くようなものです。見た目だけきれいでも意味がありません。ちゃんと建物の中に入って、配管を知っている人間と話をする必要があります」
 銀行業務を知るため、スレッシュはこの5年間でCBW銀行のあらゆるポジションを経験した。CEO、CIO、コンプライアンス最高責任者、窓口担当、用務員、それにもちろん配管係。銀行を内側から知り尽くし、新たな動きに出ようとしている。

会計

 「会計士というのはキノコのようですね。暗くてじめじめしたところに閉じ込められて」
(略)
 コースの定理で有名な経済学者ロナルド・コースは、会計学を「カルト的」と評している。(略)
 「会計士に預けられる帳簿といったら、まるで聖典のような扱いでした」と彼は言う。「減価償却や資産評価や製造間接費の配賦など、計算方法がいくつもあるわけです。どれを選ぶかで出てくる結果はばらばらなのですが、どの計算方法もすべてまっとうなやり方とされています」
 そのうえ、ほとんど同じような計算方法がなぜか認められなかったりする。(略)
 現代の会計には大きく4つの問題点がある。
1 帳簿の管理が企業の経営者にまかされている
[エンロンその他を見れば明白](略)
2 ヒューマンエラーを防げない
[ちょっとしたタイプミスが重大な問題へと発展する](略)
3 抜け道が多すぎる(略)
[どんな内部監査規定をつくっても]不正を隠そうと思えばどこにでも隠せるのが実状だ。
4 時代遅れである
(略)たとえば、大半の会計ソフトウェアはマイクロペイメントに対応していない。
(略)
「銀行にはいろいろと報告する義務があるわけですが(略)記録が内部のシステムにしまい込まれているせいで、手間がかかっているんです」
(略)
[複式簿記ブロックチェーンを追加してはどうだろう]
 「監査をする人が利用できるのは、内部でコントロールされた不透明な記録だけです。それぞれの銀行や企業が使っている会計システムに頼るしかないんです。でもブロックチェーン会計なら共通のやり方で自動化できて、その企業が健全かどうか、体力があるかどうかを簡単に確認できます。会計や監査だけでなく、監督業務の大部分が自動化できると思います」
 バランス社では、すでにイーサリアムを使った三式簿記会計システムの開発に取り組んでいる。同社のクリスチャン・ルンドクヴィストは言う。
 「不正をすることは非常に難しくなります。後から数字をいじることができないので、不正をしようと思ったらその場でやる必要があるんです」
 オースティン・ヒルも同じ意見だ。
「ネットワークが正しさを保証しているので、数字が正しいかどうかを疑う必要はありません。言ってみれば、ブロックチェーンの暗号のなかに監査が組み込まれているのです。会計事務所に頼る必要はありません。帳簿にそう書いてあれば、それが真実なのですから」

スマート著作権

 これまでのインターネットでは、クリエイターに適切な対価が支払われないことが多かった。仲介する組織や企業が、著作権マネジメントなどを口実に対価を横取りし、知的財産の価値をどんどん下げていたせいだ。
 ブロックチェーン技術を使えば、クリエイターは自分の作品の対価を正しく受けとることができる。
 アスクライブ社では、アーティスト自身がデジタル作品をアップロードし、本物であることを証明する「透かし」をつけて流通させるプラットフォームを提供している。作品はビットコインのようにブロックチェーン上で送信できて、現在の正当な所有者以外は利用できなくなる。これは「二重使用の防止」に目をつけた画期的な解決策だ。知的財産のコピーは大きな問題となっていたけれど、ブロックチェーンがその問題をエレガントに解決するのだ。
 いつどこで誰に利用を許可するか、今後はアーティストが自分でコントロールできるようになる。
(略)
 モネグラフ社も同様のサービスを提供している。(略)ビットコインと同じように公開鍵と秘密鍵を利用し、作品のデジタル権利書を発行する。おもしろいのは、モネグラフがこの権利書をツイッターに投稿する点だ。すべてのツイートは米国議会図書館に保存されるので、その記録を見れば正当な権利者がすぐに確認できる。作品はブロックチェーンソーシャルメディアによって二重に保護され、アーティストは安心して作品を公開できる。

パラダイスか悪夢か

 リバタリアンはおおむねビットコインに好意的だ。なんといっても分散型で政府の支配を受けにくいし、匿名なので課税されにくい。価格は誰にもコントロールされず、純粋な市場原理で動いている。大統領選の資金集めにいち早くビットコインを取り入れたのが、保守派で知られる共和党ランド・ポールだったのもうなずける話だ。
 リベラル派の人たちは、リバタリアンのこうした動きに眉をひそめる。ビジネス・インサイダーUK誌の創刊者ジム・エドワードは、政府や法律や税金に縛られないリバタリアン的パラダイスを「ビットコイニスタン」と呼び、「悪夢以外の何物でもない」と評した。
「混乱とカオスが広がり、犯罪者が幅を利かせて気に入らない人間を殺す世界だ。富は一箇所に集中し、今のアメリカの富を握る1%よりもさらに少数の人たちが世界の富のほとんどを所有するだろう」

  • 第10章

乗り越えるべき10の課題と、その解決策

課題1 未成熟な技術(略)
大量アクセスに対するキャパシティ不足
 ギリシャの経済危機のときに国民がビットコインのことを知っていたら、人びとがいっせいにビットコインを買おうとして大混乱になっていたことだろう。(略)
 状況は現在もあまり変わっていない。国レベルで人びとが通貨をビットコインに変えはじめたら、今のネットワークでは対応できないはずだ。(略)
 とつぜん大量のユーザーがなだれ込んできたら、処理がパンクして予期せぬエラーが起こったり、不慣れなユーザーがおかしな操作をしてお金を失ったりしてしまうかもしれない。そういう事態を避けるための対策が必要だ。
洗練されたツールの必要性
 もうひとつの問題は、一般ユーザーがすぐに使えるようなツールが整っていないことだ。(略)
難解な専門用語や、数字とアルファベットの羅列を見て、普通の人はやる気をなくしてしまうだろう。
(略)
長期的な流動性に対する懸念
 ビットコインの発行量は最大2100万と決められていて、西暦2140年頃には新規発行が停止する。それまでの期間は、新規発行量が徐々に減少するようにプログラムされている。(略)
「言うなれば貴金属のようなものだ。価値を一定に保つために供給を変化させるのではなく、事前に決定された供給量に応じて価値が変化するのである。
(略)
 ちなみにウォレットをなくしたり、コインを送信した先の人が秘密鍵を忘れてしまったりした場合、そのコインは二度と取りもどせない。誰にも使われないままブロックチェーンの片隅で眠りつづけることになる。だから実際の流通量は、2100万コインよりもいくらか少ない量になる。
(略)
 また、通貨の全体量が限られているとはいえ、ビットコインは小数点以下8桁まで分割できる。つまり、非常に小さな単位で多くのものが買えるようになる可能性があるということだ。今後ビットコインの需要が増えれば、さらに小さな単位まで分割可能になるかもしれない。あるいは、迷子になったビットコインを一定期間後にふたたび採掘可能にするというやり方も考えられる。
(略)
ユーザーの過失をどう防ぐか
 人びとは銀行やクレジットカード会社に頼ることに慣れきっている。パスワードを忘れたら再発行してもらえばいいし、クレジットカードをなくしても利用停止して新しいカードをつくってもらえばいい。(略)
 でもビットコインなどの暗号通貨では、バックアップの癖がないと困ることになる。(略)何かが起こったときの責任を自分ですべて負わなくてはいけない。
(略)
社会との関わり(略)
 「お金から社会的側面を取りのぞくことは不可能です」とフィナンシャル・タイムズ紙のイザベラ・カミンスカは言う。「絶対主義的なアプローチで社会と無関係なシステムをつくろうとした試みもありますが、それでは世の中のあり方が反映できません」
 たとえばユーロは、ひとつの尺度ですべての国の経済に対応しようとしているが、そこにはどうしても綻びが出てきている。
 「お金の世界では、記録を消去することもひとつの伝統です。なぜなら、人は10年以上も前の行動で責められつづけるべきではないからです。人生はやり直しがきくものでなくてはいけません。ですから、記録が永遠に消えないシステムというのはどこか異常な感じもするのです」
(略)
法的トラブルの可能性
 やり直しがきかないという問題は、スマートコントラクトの窮屈さという問題にもつながってくる。(略)
 これほどまでに高い確実性を持った取引や契約は、これまで社会に存在しなかった。契約が強制力を持てば、社会はより効率的に機能するだろう。でもその一方で、人の裁量や妥協の余地がまったくなくなってしまう。(略)
 さらにアンドレアス・アントノプロスは、人のアイデンティティが脅かされるのではないかと指摘する。
「(略)もしもアイデンティティを融通のきかないデジタル世界に移してしまったら(略)ファシスト的な恐ろしいものになるはずです」(略)
機械が人びとを支配するディストピアが出現するのではないか。デ・フィリッピとライトも、その点を危惧している。
 「法的な安全装置が存在しない状態で、分散化された組織の高度なネットワークが人の行動を規定するのです」
(略)
課題4 既存の業界からの圧力
(略)
 「金や権力でネットワークを支配しようとする者が現れたら、ビットコインから分岐して新たなネットワークに移行してしまえばいいんです」とブロックチェーンのプロダクト・リードを務めるキオニ・ロドリゲスは言う。
 けれど、大企業や政府が大量のマイナーたちを買収してビットコインに悪意ある攻撃をしかけてきた場合、それを防ぐ方法はあるのだろうか。
 理論的には、全マイナーの計算能力の過半数を手に入れると、任意の取引を承認してブロックチェーンに登録することが可能になる(51%攻撃)。好きなだけ不正ができるということだ。さらに仕様変更への発言力も強まり、自分たちに有利な仕様変更を加えることができるようになる。
(略)
課題6 ブロックチェーンが人間の雇用を奪う(略)
ブロックチェーンは自動化を劇的に推し進める。(略)自動運転車はUberのドライバーを不要にするし、デジタル通貨は世界に50万店舗あるウエスタンユニオンの支店を不要にするだろう。(略)
 もちろん、悲観的な側面ばかりではない。
 途上国ではブロックチェーンと暗号通貨によって起業しやすくなり、貧しい地域に新たな雇用が生まれる可能性がある。数億人の新たなマイクロ株主が登場し、経済活動が盛んになるかもしれない。国際的な援助も今よりずっと効率的になり、政府の透明性が高まって腐敗が減るだろう。政治の改善は経済と雇用の改善につながるはずだ。
(略)
課題8 自律エージェントが人類を征服する
 高度に分散化されたネットワークには、いい参加者もいれば悪い参加者もいる。(略)
ブロックチェーンを使えば、アノニマスの資金調達は今よりずっと簡単になるだろう。クラウドファンディングビットコインを調達し、その資金を使ってテロの容疑者を暗殺するということも考えられる。そうなった場合、事件の当事者は誰になるのだろう。資金を1ドルだけ出資した人は、暗殺の法的責任を問われることになるのだろうか?
 また、コンピューターの倫理という問題もある。スマート自動販売機に利益率の高い商品を仕入れるようプログラムしておいたら、違法な商品やドラッグを売るようになるかもしれない。
(略)
[分散型]企業のオーナーは、どうやって全体をコントロールするのか。コンピューターによる敵対的買収にどう対応するのか。
 たとえば分散型のウェブホスティング企業を所有し、各サーバーに経営への発言権を与えているとしよう。人間のハッカーまたはコンピューターのマルウェアが、仲間のサーバーを装って経営判断に投票し、会社の害になるような意見を過半数で通してしまうかもしれない。従来の企業の場合、何かがおかしいと気づいて社内で再調整がおこなわれるだろう。でもDAEの場合は、そのまま最悪の事態に突き進む可能性が高い。悪意ある参加者は会社を売り払うかもしれないし、内部のデータを流出させたり、データを人質にとって身代金を要求したりするかもしれない。
(略)
 「10万台の冷蔵庫が結託して銀行強盗をはたらく可能性もあるわけです」
(略)
課題9 監視社会の可能性(略)
 ブロックチェーンは匿名性の高いネットワークだが、情報はオープンにされている。人びとの情報を収集したい企業や、サイバー戦争に勝利したい国家は、血まなこになってブロックチェーンの情報を分析するだろう。そこにはあらゆる価値が詰まっているからだ。(略)
 IoTでネットワーク化されたデバイスが勝手にデータを収集・分析し、人の一生を台無しにするような情報を公表する可能性もある。
(略)
たしかにブロックチェーンを使えば、自分でかなり情報を制御できる。とはいえ情報をうまく遮断するためには、よほど神経を尖らせている必要があるだろう。
(略)
アン・カブキアンが強調するのは、プライバシーをデフォルト設定にすることだ。ユーザーをデザインの中心に置き、エンド・ツー・エンドのセキュリティを確保し、必要なくなったデータはすみやかに消去する。ユーザーのプライバシーを尊重すれば、ブランドに対する信頼も上がるだろう。「ウィン・ウィンの関係が築けると思います。ゼロサムである必要はないんです」とカブキアンは言う。
 「ただし、実行するには強い意志が必要です」とマシエ・セグロウスキは付け加える。「人びとを監視するビジネスモデルをきっぱり捨てるわけですから、もちろん痛みを伴います。なんとかして新たな法律を通す必要もあるでしょう。
(略)
課題10 犯罪や反社会的行為への利用
 ビットコインが出始めたころによく聞こえてきた批判は、犯罪に利用されるのではないかというものだった。(略)
 でもビットコインブロックチェーン技術が、その他の技術よりも犯罪に向いているというわけではない。明確な記録が残るので、むしろ取り締まりやすいという意見のほうが多いくらいだ。
(略)
将来的には量子コンピューターという大問題も控えている。量子コンピューターの計算能力を前にして、現在の暗号はまったく役に立たなくなるかもしれない。スティーブ・オモハンドロは言う。
 「量子コンピューターは、きわめて大きな数字の素因数分解をきわめて高速に実行できると考えられています。そして公開鍵暗号の大半はそういった素因数分解で解ける性質のものです。
(略)
 あらゆる革新的な技術がそうであるように、ブロックチェーンに対してもいくつかの競合する見方がぶつかり合っている。コア開発者のコミュニティ内でもいくつかの派閥が生まれ、別々の方向性を主張しはじめた。元米国政府アドバイザーで現MITデジタル通貨イニシアティブ代表のブライアン・フォードは、次のように述べている。
 「ブロックサイズをめぐる議論を見ていると、本当に問題はブロックサイズなのかと疑問に思えてきます。表面的にはブロックサイズの話をしていても、その奥にはガバナンスをめぐる議論が隠れているのです」
2015年1月には、主要なコア開発者のマイク・ハーンがコミュニティに背を向け、ビットコインはもうすぐつぶれるだろうと予言して去っていった。彼はそのときの手紙のなかで、重要な技術的仕様の問題がいつまでたっても解決されないことや、開発者たちの対立と混乱が存在することを嘆いている。そんな状況では成功するわけがないというのだ。

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