エコロジストのための経済学・その2

エコロジストのための経済学

エコロジストのための経済学

前日の続き。内容紹介。

エコによる経済収縮の単純化モデル

として、A(牛乳2リットル生産)とB(瓶2本生産)が相互に1リットルと一本を交換して(牛乳1リットル・瓶1本)を消費している場合、Aが瓶をリサイクルするとBは商売あがったりでAの牛乳が買えなくなり、A自身も損をする。

このように、リサイクルや節約の意識は、対象商品の生産者の所得を減らすばかりてはなく、めぐりめぐって、実行者の所得も減らすことになるのである。それは、経済社会というのは、複雑にリンクしていて、自分だけが独立で安穏としていられるわけではないからである。ここで筆者は、リサイクルや環境保全や節約の実行を否定しているつもりはない。そういうことをしようとしている人たちが、ちゃんと自分たちに及ぶ経済的な損害を意識し、覚悟しているのか、それを問いたいだけである。

  • 疑問

なるほどと納得したうえで、単純化モデルには溢れ返った空き瓶の山という光景が欠如しているという当たり前の感想。
あとエコに対する批判としてエコの方が回収だの再生だのに逆にコストがかかる、高性能焼却炉でガンガン燃やしてしまえというのがあるが、著者の経済的視点から言うと無駄を呼んでいるエコは、逆に経済的見地からは結構なことになるのか。
他にも「環境問題をナッシュ均衡論と見た場合解決が困難」であると分析して、それに対する回答は地球サミットというように、実にモラル全開の一般的エコ回答になってしまう。

このような利益構造をしたコモンズでは、個人的に利益がある限り、みんながオープンアクセスしてしまい、それは自分たち相互に不利益を与え合う結末となる。まさに独占企業と裏返しの出来事が起きるのである。独占企業とコモンズの悲劇は、生じているメカニズムはちょうど表裏の関係になっているが、経済の効率性を逸するその仕組みは同じものだと言ってよい。
このように読んでくると、「コモンズの悲劇」を回避するには、先ほど解説した中にあった「民有化」、つまり「所有権をはっきりさせる」ということしかないように思われる。

こう説明しつつも、結局著者は共同体の掟によって安定していたコモンズが資本主義によって破壊されたと見る側に立って京都議定書を「掟」にしようというモラルによる回答を出す。
 

景気対策のための公共事業が環境破壊

政府による公共事業は、民間ではなかなか手を染められないような事業になるのが一般的だ。(略)自然環境を改造するような大規模な事業は、民間企業にはなかなか着手しづらい。(略)そもそも公共事業は採算を前提としないうえ、政府は国民の代表であるから、公共の財産である自然環境を操作する権利を行使しやすいわけだ。以上のような理由から、景気対策の公共事業は、自然環境破壊の元凶となってしまう。(略)
自然環境を犠牲にして、市民の雇用と安定した経済規模を確保してきたのだ、と言っても過言ではない。

環境は共有物としてコントロールすべきだが

「コモンズの悲劇」にしても、この「コースの定理」にしても、経済学者の間には、「環境問題は、環境の所有者をはっきりと決めれば解決する」という考えが支配的であったと言える。所有権があいまいだから、「利益の衝突」という形で環境問題が起きる。所有権がはっきりしていれば、どちらかがどちらかに利益の一部を支払う契約で環境に間借りさせてもらえば問題は起きない。そんな考えであった。このような考えは、ごく一部の環境問題には通用するかもしれないが、一般論としては無理がある。(略)
したがって、環境というものは、共有物・公有物であることを前提としてコントロールしなければならないことは疑いない ところが、公有物であることから別種の問題が生じる。(略)
政府・官僚組織による環境の利権化である。

公共財は社会を膠着性から脱出させる

たとえば、Aさんが「街路というのは、ただ単に歩ければいいもの」と思いこんでいたとする。しかし、何人かの住民が、お金を出し合って、街路樹を植林したとしよう。この街路樹が春に桜を咲かせたとき、Aさんはこの街路を歩くことで、自分の考えの誤りに気づくかもしれない。これだけ気持ちが良いなら、自分も私財の一部を街路樹のために貢献したっていい、と考えを改めるかもしれない。そんなようなことだ。(略)
人間は全知全能ではない。だから、自分の貧しい経験のために、間違った知識や認識や感覚を持っていることもままある。また、そのような錯誤は、私的財の市場取引では是正されず、ひどい場合、社会を膠着化させていることもあるだろう。このようなとき、公共財=社会的共通資本が、これらの錯誤を改定し、社会をより快適な方向に導く可能性は高いと思われる。社会的共通資本の理論は、このような可能性をも内包する理論なのである。

他にも、石油が枯渇しかければ価格は高騰する、そうなれば消費量は減少するし、代替エネルギーへの転換も進む、といった話から、わかりやすい経済学の説明もあって、内容充実。
最後に関係ない話。
あとがきは著者の人柄が滲んだ心暖まる文章であります。